大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和52年(行ウ)16号 判決 1979年9月12日

埼玉県川口市並木町三丁目三一番二四号

原告

幸徳商事株式会社

右代表者代表取締役

大谷光男

右訴訟代理人弁護士

西村史郎

東京都千代田区神田錦町三-三

被告

神田税務署長

梶山正哉

右指定代理人

布村重成

三上正生

関川哲夫

池田隆昭

主文

一  原告の昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日までの事業年度分の法人税につき被告が昭和四九年三月三〇日付でした更正処分及び重加算税賦課決定処分のうち、所得金額を六一六六万四六一六円として計算した額を超える部分を取り消す。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者双方の求めた判決

(請求の趣旨)

一  被告が昭和四九年三月三〇日付で原告に対してした左記各処分をいずれも取り消す。

1 原告の昭和四六年四月一日から同四七年三月三一日までの事業年度分法人税についての更正処分及び重加算税賦課決定処分

2 原告の昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日までの事業年度分法人税についての更正処分のうち税額七五万二九二〇円を超える部分及び重加算税賦課決定処分

二  訴訟費用は被告の負担とする。

(請求の趣旨に対する答弁)

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

第二当事者双方の主張

(請求原因)

一  原告は、金融及び不動産の仲介等を業とする株式会社であり、昭和四七年五月三一日に昭和四六年四月一日から同四七年三月三一日までの事業年度(以下、「昭和四六年度」という。)の法人税について所得金額を欠損一八五万八一五六円とする確定申告をした。

また、原告は、昭和四八年五月三一日に昭和四七年四月一日から同四八年三月三一日までの事業年度(以下「昭和四七年度」という。)の法人税について所得金額二六八万九八一二円、税額七五万二九二〇円(所得税額控除後の税額五六万五四〇〇円)とする確定申告をした。

二  原告の右各事業年度分の法人税について、被告は昭和四九年三月三〇日付で左の処分をした。

1 原告の昭和四六年度分法人税について、所得金額三二四一万九一五三円、税額一二二〇万四六〇〇円とする更正処分及び税額三七万八五〇〇円とする重加算税賦課決定処分

2 原告の昭和四七年度分法人税について、所得金額六三六二万〇六一六円、税額二四三五万二七〇〇円とする更正処分及び税額七一三万六一〇〇円とする重加算税賦課決定処分

三  原告は、右各処分を不服として、昭和四九年五月二四日異議申立てをしたが、これに対して決定がなされないので、昭和五〇年一月一四日審査請求をしたが、同五一年一二月三日付で棄却された。

四  しかし、原告の所得は確定申告のとおりであり、本件各処分は原告の所得を過大に認定した違法なものである。

よって請求の趣旨のとおり取消しを求める。

(請求原因に対する認否)

請求原因一ないし三の事実は認める。同四は争う。

(被告の主張)

一  原告は係争各事業年度において小口現金出納帳以外の帳簿の記載をしていなかったため、所得の実額を把握することができなかった。そこで、被告は、やむを得ず、原告の係争各事業年度の期首と期末の資産及び負債を調査し、各年度末の純資産の増加額によって左記二、三のとおり原告の所得金額を推計した(いわゆる資産負債増減法)。

二  昭和四六年度分所得金額 三二四一万九一五三円

被告は別紙一のとおり原告の昭和四六年度分所得金額を三二四一万九一五三円と推計した。主要項目を説明すると次のとおりである。

1 別紙一1預金

原告は、代表者大谷光男名義で秋田相互銀行東京支店及び三井銀行上野支店に普通預金口座を有し、その昭和四六年度末(昭和四七年三月三一日)残高合計は一二二万四五四九円であったが、申告に際しこれを除外していた。そこで、被告は所得推計にあたりこれを加算した。

2 別紙一2貸付金

被告の調査によると、原告の昭和四六年度末における貸付金は別紙一2(1)ないし(8)のとおり合計六二二二万円であったが、原告の申告額は貸付金全体で二二〇〇万円にすぎなかったので、差額の四〇二二万円を加算した。

3 別紙一3土地

原告は盛岡市繋字猿田所在の土地造成費について七一六万七二四〇円だけ過大に計上していたので、これを減算した。

三  昭和四七年度所得金額 六三六二万〇六一六円

被告は別紙二のとおり原告の昭和四七年度分所得金額を六三六二万〇六一六円と推計した。主要項目の内容は次のとおりである。

1 別紙二1預金

原告は、芝信用金庫日本橋支店に当座預金口座を有し、昭和四七年度末(昭和四八年三月三一日)の残高が八二九万四六八八円であったにもかかわらず、これを三六万四〇七二円として申告した。そこで、被告は、所得推計に際し、差額の七九三万〇六一六円を加算した。また、原告は、同年度末に代表者大谷光男名義で秋田相互銀行東京支店に四二〇〇万五二七七円の普通預金口座を有していたが、申告においてはそれが計算外となっていたので、これを加算した。

以上二項目の合計四九九三万五八九三円が別紙二1の金員である。

2 別紙二2受取手形

原告は、昭和四八年二月二三日株式会社畑組から額面二三七一万七五〇〇円の約束手形を受け取ったにもかかわらず、申告に際して計算外としていた。よって被告はこれを加算した。

3 別紙二3出資金

原告の申告において計算外となっている京浜信用組合に対する出資金一万円である。

4 別紙二4貸付金

原告の昭和四七年度末における貸付金は別紙二4(1)ないし(9)のとおり合計四二五〇万円であったが、原告の申告額は貸付金全体で一七二〇万円にすぎなかったので、差額の二五三〇万円を加算した。

5 別紙二5土地

原告は、昭和四七年度に前記二3の土地を売却したが、前記二3のように過大に計上した造成費を基礎に右土地の原価を計算して売却費を算出しているため、売却益は造成費過大計上額と同額の七一六万七二四〇円だけ少なく申告されている。よって被告は右金額を益金に加算した。

6 別紙二6、7前年度簿外加算預金及び同貸付金

昭和四七年度中の純資産の増加額を算出するためには、同年度期末における資産額から同年度期首即ち昭和四六年度期末における資産額を控除する必要がある。そこで、被告は、昭和四六年度期末における資産として加算した前記二1(別紙一1)の簿外預金額一二二万四五四九円及び前記二2(別紙一2)の簿外貸付金差額四〇二二万円を昭和四七年度において減算した。

7 別紙二8未払事業税

昭和四六年度にかかる本件推計により増加した所得金額に対応する未払事業税相当額を損金として減算した。

四  原告は、本件各係争事業年度分の法人税の申告にあたり、右にみたとおり、貸付金、出資金及び受取手形を過少に計上し、かつ、預金の一部を代表者の個人名義に仮装する等により、所得金額を除外または過少にした決算書を作成し、これに基づいて納税申告書を提出した。この行為は国税通則法六八条一項に該当するので、重加算税の賦課を免れない。

五  以上のとおりであるから、本件各更正処分及び各重加算税賦課決定処分は適法である。

(被告の主張一に対する認否及び主張)

一  被告の主張一の事実及び本件各係争事業年度の所得を資産負債増減法によって推計することの正当性は認める。

二  同二のうち、原告の昭和四六年度分の所得金額を三二四一万九一五三円とする部分は否認する。原告の昭和四六年度分の所得金額は申告どおり欠損金一八五万八一五六円である。

1 同二1の事実(別紙一1預金)は認める。

2 同二2のうち、原告が昭和四六年度末において別紙一2(1)ないし(8)の貸付先に対し同下段の貸付金を有していたこと及び申告に際し貸付金を全体で二二〇〇万円としていたことは認める。

しかし、同(6)(7)以外の貸付先はいずれも不渡を出して倒産(行方不明となっているものもある。)し、これらに対する貸付金は不良債権であるから、所得推計に際して資産とすべきではない。

3 同二3は認める。

4 原告は、昭和四六年度末において次のような簿外の負債を有していたから、所得計算上これを減算すべきである。

(1) 原告が昭和四六年度末において芝信用金庫日本橋支店から借り入れていたのは現実には六七〇〇万円であったが、確定申告に際しては実際より少ない五五〇〇万円としたから、差額の一二〇〇万円は減算すべきである。

(2) 原告は昭和四六年一二月末頃呉漢準に対し左記のとおり五六〇〇万円の支払債務を負担した。則ち、原告は、昭和四六年六月一〇日呉漢準に対し盛岡市繋大字猿田三〇番ほか宅地五九五〇・四平方メートルを、同年一二月一五日までに造成工事を完了して引き渡す、原告がこれを履行しないときには買主において契約を解除することができ、その場合原告は受領済みの内払金を返還し、違約損害金として二八〇〇万円を支払うとの約定で売却し、同日内払金として二八〇〇万円を受領したが、約定の昭和四六年一二月一五日までに造成工事を完了して引き渡すことができなかったため、直ちに契約を解除され、呉漢準に対し、二八〇〇万円の内払金及び同額の違約損害金を支払うべき債務を負担するに至った。そして、原告は昭和四七年六月一日、二日、五日に分けて右五六〇〇万円を支払った。したがって、右五六〇〇万円の負債は減算すべきである。

三  同三のうち、原告の昭和四七年度分の所得金額を六三六二万〇六一六円とする部分は否認する。原告の昭和四七年度分の所得金額は申告どおり二六八万九八一二円である。

1 同三1ないし3及び5ないし7の事実(別紙二1ないし3及び5ないし8の項目)はすべて認める。

2 同三4のうち、原告が昭和四七年度末において別紙二4(1)ないし(9)の貸付先に対し同下段の貸付金を有していたこと及び申告に際し貸付金を全体で一七二〇万円としていたことは認める。

しかし、同(3)(7)(8)(9)以外の貸付先はいずれも不渡を出して倒産し、これらに対する貸付金は不良債権であるから、所得推計に際して資産とすべきではない。もっとも、同(4)の富国興業株式会社からはその後一〇〇万円を回収したが、残額は放棄した。

四  同四の事実は否認する。

(原告の主張に対する被告の反論)

一  原告は、別紙一2(昭和四六年度)及び別紙二4(昭和四七年度)の貸付金の大半は不良債権であって資産にはならない旨を主張する。

しかし、被告が右貸付金を係争各事業年度末における資産と認定したのは、原告代表者大谷光男が被告担当係官に申し立てた内容に基づき被告が調査した結果によるものである。

また、法人所得の計算上貸倒損失をいかに扱うべきかに関し別段の定めはないが、一般に公正妥当と認められる会計処理の基準に従って計算すべきであると解されるから、係争貸付金の如き簿外債権については債権回収が困難あるいは不能になったとの一事をもって直ちに貸倒損失として損金に算入することは許されない。仮りに右主張が認められないとしても、貸倒損失を計上するためには、債権者が債権回収のため真摯な努力を払ったにもかかわらず、客観的にみて回収見込みのないことが確実になったことを要すると解されるところ、本件の係争貸付金についてそのような事実は認められないから、これを貸倒れとして損金に算入することはできない。

二  原告は、昭和四六年度末における原告の芝信用金庫日本橋支店に対する借入金は六七〇〇万円であったが、確定申告にあたってはこれを五五〇〇万円としたから、差額の一二〇〇万円を減算すべきである旨を主張する。

ところで、原告は昭和四六年度分決算書の作成にあたり、原告代表者の記憶と取引銀行等への照会によって資産及び負債(但し、原告代表者からの借入金は除く。)を確認して貸借対照表を作り、これにより当期利益額と、原告代表者が恣意的に定めた損益計算書上の当期損失額とを調整して一致させるため、差額に相当する額一億四〇〇〇万円を原告代表者からの借入金として貸借対照表に計上したものである。したがって、仮りに本訴において新たに主張された芝信用金庫日本橋支店に対する簿外借入金一二〇〇万円が存在するとしても、それは右調整借入金一億四〇〇〇万円の中に含まれているのであって、課税所得金額を左右するものではない。

三  さらに、原告は、昭和四六年度末において原告が呉漢準なる者に対し盛岡市所在の土地売買契約にかかる違約損害金等支払債務五六〇〇万円を負担していたから、これを減算ずべきである旨を主張するが、右のような土地売買契約が締結されたとの事実は認められず、右主張は理由がない。

第三証拠

一  原告

1  甲第一号証の一、二、第二号証の一ないし四、第三号証の一、二、第四、第五号証の各一ないし三、第六号証の一ないし四、第七号証の一ないし三、第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇、第一一号証、第一二号証の一ないし三

2  原告代表者大谷光男尋問の結果

3  乙第一ないし第三号証、第五号証の各原本の存在及び成立並びに乙第四、第六、第七、第一〇号証の成立はいずれも認める。乙第八号証の原本の存在及び成立並びにその余の乙号証の成立は知らない。

二  被告

1  乙第一ないし第一〇号証、第一一号証の一、二

2  証人高橋恢、同池田隆昭の各証言

3  甲第八、第一〇号証の成立は知らない。甲第一二号証の一ないし三の原本の存在及び成立並びにその余の甲号証の成立は認める。

理由

一  請求原因一ないし三の事実は当事者間に争いがない。

二  ところで、原告が小口現金出納帳の記載しかしていなかったため、所得の実額を把握することができない状況であったことは、当事者間に争いがない。したがって、その所得金額の認定は推計によらざるを得ず、また、その推計方式として被告が本件において用いたようないわゆる資産負債増減法を採用すること自体も特段の事情のない限り合理性があるというべきである。

三  昭和四六年度分所得金額

1  昭和四六年度分の所得金額を推計するにあたり、別紙一1の預金一二二万四五四九円を資産に加算し、同3の盛岡市繋字猿田所在の土地造成費過大計上分七一六万七二四〇円を減算すべきことは、当事者間に争いがない。

2  簿外貸付金

原告が昭和四六年度末において別紙一2(1)ないし(8)の貸付先に対し同下段の貸付金債権を有していたことは当事者間に争いがなく、他に特段の主張立証がない限り、これらの貸付金債権は昭和四六年度末の原告の資産であると推認される。

原告は、別紙一2(1)ないし(8)のうち(6)(7)以外の貸付金は回収不能の不良債権であって資産とすべきではない旨を主張するので、以下検討する。

(1)  株式会社正鋼に対する一六〇〇万円(別紙一2(1))

いずれも成立に争いのない甲第二号証の一ないし四、乙第三、第四号証(乙第三号証は原本の存在も争いがない。)証人池田隆昭の証言及び原告代表者尋問の結果によれば、(イ)原告が右貸付金の内金弁済のために受領した株式会社セイコー振出、飯沼政一裏書にかかる額面一三三万七〇五〇円の約束手形が取引なしを理由に不渡となり、右株式会社セイコーと株式会社正鋼とは同一人(飯沼政一)の経営する会社であるが、右手形が不渡となったのは原告の昭和四六年度末より後の昭和四七年五月二三日であること、(ロ)その後の昭和四七年八月一五日に株式会社正鋼は原告の預金口座に八〇万円を入金していることが認められる。これらの認定事実に照らすと、株式会社正鋼に対する前記貸付金債権が昭和四六年度末において回収不能であったということはできず、右債権は同年度末の原告の資産と認めるのが相当である。

(2)  中京物産株式会社に対する一九〇〇万円(別紙一2(2))

成立に争いのない甲第三号証の一、二、前掲乙第三、第四号証、証人池田隆昭の証言及び原告代表者尋問の結果によれば、(イ)原告が中京物産株式会社から右貸付金の内金弁済のために受領した額面二六万円の小切手が資金不足を理由に不渡になっているが、右小切手の授受は昭和四六年度末より後の昭和四七年九月一四日、不渡は同月一八日であること、(ロ)中京物産株式会社は昭和四七年八月三日に原告の預金口座に五〇万円を入金していることが認められる。右認定事実に照らすと、中京物産株式会社に対する前記貸付金債権が昭和四六年度末において回収不能であったということはできず、右債権は同年度末における原告の資産と認めるべきである。

(3)  梶園武計に対する二三二万円(別紙一2(3))

成立に争いのない甲第四号証の一ないし三及び原告代表者尋問の結果によれば、原告が昭和四六年七月三〇日梶園武計から右貸付金の内金弁済のために受領した日本テクニカル株式会社(代表取締役は梶園武計)振出、額面三七万〇一五〇円の約束手形が同年九月四日預金不足を理由に不渡となった事実は認められるが、そのことから直ちに、梶園武計個人が客観的に支払不能の状況にあったものと推認することはできず、他に右債権が昭和四六年度末において回収不能であったとの証拠はない。したがって、右債権は同年度末の原告の資産と認めるべきである。

(4)  田中孫平に対する一〇〇万円(別紙一2(4))

成立に争いのない甲第五号証の一ないし三及び原告代表者尋問の結果によれば、原告が右貸付金の弁済のために受領した日本広告枠株式会社(代表取締役は田中孫平)振出にかかる額面一〇〇万円の約束手形が昭和四五年一月一五日に取引停止処分による解約済みを理由に不渡になった事実が認められる。しかし、右事実のみをもってしては田中孫平個人に対する右債権が昭和四六年度末において回収不能であったと推認するには足りず、右債権を同年度末の原告の資産と認めるべきことは、(3)において述べたとおりである。

(5)  株式会社松島建築研究所に対する一五〇〇万円(別紙一2(5))

いずれも成立に争いのない甲第六号証の一ないし四、乙第五、第六号証(乙第五号証は原本の存在も争いがない。)、証人池田隆昭の証言及び原告代表者尋問の結果によれば、(イ)原告が右貸付金の弁済のために株式会社松島建築研究所から受領した額面一六五〇万円の小切手が依頼返却となっているが、それは昭和四六年度末より後の昭和四八年一〇月四日であること、(ロ)株式会社松島建築研究所は昭和四八年五月三一日に原告の預金口座に一七〇〇万円を入金していることが認められる。以上の認定事実に照らすと、株式会社松島建築研究所に対する前記貸付金債権が昭和四六年度末において回収不能であったということはできず、右債権は同年度末の原告の資産であると認めるべきである。

(6)  石原金属工業株式会社に対する金二〇〇万円(別紙一2(8))

原告代表者尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第八号証及び右尋問の結果によれば、石原金属工業株式会社は後記のとおり昭和四八年二月当時には支払不能の状態であった事実が認められるが、昭和四六年度中にそのような状態に陥っていたことを推認せしめるに足りる証拠はないから、同年度末においては右債権全額を原告の資産と認めるべきである。

以上のように、昭和四六年度末において原告は別紙一2(1)ないし(8)の八口の合計六二二二万円の貸付金債権を有していたが、確定申告書添付の決算書においては貸付金全体で二二〇〇万円とした(このことは当事者間に争いがない。)にすぎないから、差額の四〇二二万円は簿外貸付金として加算すべきである。

3  簿外借入金

原告は、昭和四六年度末において原告が芝信用金庫日本橋支店から六七〇〇万円を借り入れていたにもかかわらず、確定申告添付の決算書にはこれを五五〇〇万円としたから、差額の一二〇〇万円は簿外の借入金である旨を主張し、成立に争いのない甲第一一号証並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第一号証によれば、原告の右金庫からの現実の借入金が六七〇〇万円であるのに決算書にはこれが五五〇〇万円と記載されている事実が認められる。

しかし、右乙第一号証及び証人高橋恢の証言並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和四六年度末の決算書類を作成するにあたり、貸借対照表に借入金として一億九五〇〇万円を計上するとともに、勘定科目内訳明細書には、その内訳として芝信用金庫日本橋支店から五五〇〇万円、原告代表者から一億四〇〇〇万円と記載し、これを確定申告書に添付して被告に提出したので、本件更正に際しては、右記載のとおりの借入金が現実に存在するものとしてこれを基礎に推計が行われたが、右原告代表者からの借入金一億四〇〇〇万円は真実のものではなく、専ら決算書類上において当期の損益計算の辻褄を合わせるための調整策として代表者からの借入金という負債項目を設けたものであることが認められる。してみると、芝信用金庫日本橋支店からの原告の借入金が原告の主張するとおり六七〇〇万円であったとしても、本件更正の際に既に減算されている前記決算書類上の借入金額の範囲内である以上、重ねて減算すべきでないことは当然である。原告の主張は採用することができない。

4  違約損害金等

原告は、呉漢準との間に締結した土地売買契約の不履行により、昭和四六年一二月一五日頃同人に対し合計五六〇〇万円の違約損害金等の支払債務を負担したので、これを減算すべきである旨を主張する。そして、甲第一〇号証及び原告代表者尋問の結果はこれに符合するものであり、右代表者の供述によると、右五六〇〇万円は昭和四七年六月一日に三〇〇〇万円、同月二日に一〇〇〇万円、同月五日に一六〇〇万円を都内上野のタカラホテルにおいて現実に呉漢準に支払ったとされている。

しかし、証人高橋恢の証言によれば、被告担当係員は、本件更正に先立ち、原告代表者や関与税理士と面接して原告の資産及び負債の状況の説明を受けたが、右調査の過程において、呉漢準との間の土地売買契約、その不履行による違約損害金等支払債務の発生といった事柄は原告代表者らから全く申出がなく、甲第一〇号証の売買契約書の呈示もなかったことが認められるうえ、成立に争いのない乙第七、第一〇号証、証人池田隆昭の証言により真正に成立したと認められる乙第八、第九号証(第八号証については原本の存在を含む。)及び同証人の証言によれば、右売買契約書の買主欄に表示されている「大阪市北区山崎町二六呉漢準」なるものについては外国人登録がされていないこと、また、原告代表者は、右売買契約書末尾の買主欄の「呉漢準」の署名部分について呉漢準本人が署名したものであり、同人はその後北朝鮮に帰還した旨供述するが、原告の主張する売買契約の当時大阪市天王寺区勝山通二丁目三三〇に居住し昭和四七年八月二五日に北朝鮮に帰還した呉漢準なる者が自ら署名したものであることが明らかな乙第九号証六枚目の「呉漢準」の署名と対比すると、前記甲第一〇号証の売買契約書の買主の署名部分は一見して筆跡が異なることが認められるのであり、右売買契約書の成立には疑問があるといわなければならない。また、原告代表者の供述する五六〇〇万円の支払についてみても、その領収書等が提出されていないのみならず、証人池田隆昭の証言及びこれにより真正に成立したと認められる乙第一一号証の一、二によれば、右支払が行われたという上野のタカラホテルが昭和四七年五月三一日から六月六日までの間に呉漢準なる宿泊客を受け入れたことがなかった事実が認められるのであって、この点にも少なからぬ疑問がある。

結局、原告の主張する売買契約の成立及びその不履行の事実につき、これにそう前掲甲第一〇号証及び原告代表者尋問の結果は証拠として採用するに足りず、また、成立に争いのない甲第一二号証の一ないし三をもってその証拠とすることも相当でないというべきである。してみると、前記違約損害金等の支払債務は存在しなかったものと認められるから、原告の主張は失当である。

5  まとめ

以上により、原告の申告にかかる欠損金額一八五万八一五六円に預金一二二万四五四九円と貸付金差額四〇二二万円とを加算し、土地造成費過大計上分七一六万七二四〇円を減算すると、原告の昭和四六年度の所得金額は三二四一万九一五三円と推計される。

よって、右金額を所得金額としてなされた昭和四六年度分の本件更正処分に違法はない。

四  昭和四七年度分所得金額

1  昭和四七年度分の所得金額を推計するにあたり、別紙二1の預金四九九三万五八九三円、同2の受取手形二三七一万七五〇〇円、同3の出資金一万円、同5の土地七一六万七二四〇円を資産に加算し、同6の前年度簿外加算預金一二二万四五四九円、同7の前年度簿外加算貸付金四〇二二万円、同8の未払事業税三七五万五二八〇円を減算すべきことは、当事者間に争いがない。

2  簿外貸付金

原告が昭和四七年度末において別紙二4(1)ないし(9)の貸付先に対し同下段の貸付金債権を有していたことは当事者間に争いがなく、他に特段の主張立証がない限り、これらの貸付金債権は昭和四七年度末の原告の資産であると推認される。

原告は、別紙二4(1)ないし(9)のうち(3)(7)(8)(9)以外の貸付金は回収不能の不良債権であって資産とすべきではない旨を主張するので、以下検討する。

(1)  田中孫平に対する一〇〇万円(別紙二4(1))

これについての証拠関係及び認定判断は、同人に対する昭和四六年度分貸付金(前記三2(4))について述べたところと同様であり、右債権が昭和四七年度末において回収不能であったとは認めがたい。

(2)  株式会社松島建築研究所に対する一八〇〇万円(別紙二4(2))

これについての証拠関係及び認定判断は、同会社に対する昭和四六年度分貸付金(前記三2(5))について述べたところと同様であり、右債権が昭和四七年度末において回収不能であったとは認めがたい。

(3)  富国興業株式会社に対する一五〇万円(別紙二4(4))

成立に争いのない甲第七号証の一ないし三及び原告代表者尋問の結果によれば、原告が右貸付金の弁済のために昭和四七年五月八日富国興業株式会社から受領した額面一〇〇万円の小切手が同月九日資金不足により支払拒絶されたことが認められるが、その後同会社から原告が一〇〇万円を回収していることは原告の自認するところであって、昭和四七年度末において同会社が客観的に支払不能の状態にあったと認めるべき証拠はない。したがって、右貸付金は原告の同年度末の資産であると認められる。

(4)  石原金属工業株式会社に対する二〇〇万円(別紙二4(5))

前掲甲第八号証と原告代表者尋問の結果によれば、石原金属工業株式会社は昭和四八年二月当時には支払不能の状態にあり、同会社の整理を実施中の債権者委員会が同会社の全資産を届出債権者六三社に対し届出債権額の各二・二パーセントの割合で分配することとし、同月二〇日付で原告に対し債権額の二・二パーセントにあたる四万四〇〇〇円を支払う旨を通知してきたことが認められる。したがって、特段の事情の立証のない限り、原告が分配を受けなかった一九五万六〇〇〇円(債権額二〇〇万円から四万四〇〇〇円を差し引いた金額)については、爾後回収不能による貸倒損失が生じたものと認めるのが相当であり、これを昭和四七年度末における資産とすることはできないというべきである。原告が右貸付金を簿外としていたからといって、そのことにより右の結論が左右されるものではない。

(5)  新東亜産業株式会社に対する二〇〇万円(別紙二4(6))

成立に争いのない甲第九号証の一ないし三及び原告代表者尋問の結果によれば、原告が右貸付金の弁済のために新東亜産業株式会社から振出を受けた額面二〇〇万円の約束手形が昭和四七年一一月一八日取引なしを理由に不渡となったが、原告はその後同会社から右貸付金全額を回収することができた事実が認められる。右認定事実に照らすと、右貸付金は昭和四七年度末において回収不能ではなく、原告の同年度末の資産であると認めるべきである。

以上のように、原告は昭和四七年度末において別紙二4(1)ないし(9)の九口の合計四二五〇万円の貸付金債権を有していたが、うち同(5)の石原金属工業株式会社に対するものは、内金一九五万六〇〇〇円が貸倒損失と認められるので、これを控除した四〇五四万四〇〇〇円が昭和四七年度末の資産となるものである。しかるに、確定申告書添付の決算書においては貸付金全体で一七二〇万円としていた(このことは当事者間に争いがない。)にすぎないから、差額の二三三四万四〇〇〇円は簿外貸付金として加算すべきである。

3  まとめ

以上により、原告の申出にかかる所得金額二六八万九八一二円に別紙二1ないし3及び同5の各金額と右認定の貸付金差額二三三四万四〇〇〇円とを加算し、別紙二6ないし8の各金額を減算すると、原告の昭和四七年度の所得金額は六一六六万四六一六円と推計される。

よって、昭和四七年度分の本件更正処分のうち、所得金額が右六一六六万四六一六円を超える部分(超過額は一九五万六〇〇〇円)は違法であり、取り消すべきである。

五  重加算税賦課決定処分について

前掲乙第一、第二号証及び証人高橋恢の証言並びに前認定の事実を総合すると、原告は、係争各事業年度の所得につき、小口現金出納帳しか記載していなかったため正確な決算書を作成することが不可能であったにもかかわらず、法人税を過少に申告するために、貸借対照表等から多額の貸付金及び一部の預金、受取手形等をあえて除外し、また、預金の一部を代表者の個人名義にして原告の資産でないように仮装するなどし、右隠ぺい又は仮装したところに基づいて納税申告書を提出していたことが認められる。

右認定事実によれば、原告は前記三、四において認定した係争各事業年度の過少申告分につき重加算税の賦課を免れないものというべきである。したがって、更正処分の認定した所得金額が一部過大である昭和四七年度分の重加算税賦課決定処分については、右過大な部分に対応する限度において違法なものとなる。

六  以上のとおりであり、原告の請求は、昭和四七年度分にかかる本件更正及び重加算税賦課決定処分のうち所得金額を六一六六万四六一六円として計算した額を超える部分の取消しを求める限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九二条但書を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 佐藤繁 裁判官 川崎和夫 裁判官 岡光民雄)

別紙一 昭和四六年度分

<省略>

別紙二 昭和四七年度分

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例